オウム:「おはよう、おはよう」
タツヤ:「う~ん・・ああもう、うるせえんだよ!このクソオウムが。少しは黙ってろ。今何時か分かってんのか?深夜0時だぞ。いい加減眠らせてくれよ」
オウム:「おはよう、おはよう」
タツヤ:「ああ、もぅ・・うるせえよ。畜生」
オレの名前はタツヤ、高校二年生。ある日、オレの家にオウムが一羽やって来た。
遠い親戚のお婆さんが飼っていたらしいのだが、ついこの間、飼い主のお婆さんが亡くなり、流れに流れてオレの家にやって来た。
ちなみにそのお婆さんはそこそこ有名な占い師だったそうだ。昔、テレビに出演したこともあるらしい。
話を戻そう。
とにかくそういうわけで、オウムが一羽、オレの家ににやって来たのだが、とにかくうるさい。「おはよう、おはよう。」これを連発するのだ。
オウムが来て一か月が経った。
あいかわらず「おはよう、おはよう。」と鳴いている。
そんなある日
オウム:「ひー、ひー、ひー」
朝起きると、オウムはずっと「ひー、ひー」と鳴いていたのだ。
タツヤ:「あれ?今日は『おはよう』じゃないんだな。珍しい。それにしても『ひー』って一体何なんだ?」
そう思いながら台所に行き、朝食をとる。すると、
「プルルルル」
固定電話に一本の着信が。
母:「はい、もしもし。ええ。そうですか。わかりました」
タツヤ:「こんな朝早く、誰がかけてきたの?」
母:「近所の石川さんからでね。旦那さんがお亡くなりになったんだって」
タツヤ:「そうなんだ」
近所の石川さんはオレも知り合いで、小さい頃によく竹馬を教えてくれた優しいおじさんだった。いつも元気そうに見えたのに、突然の訃報に朝から少しショックだった。
それから数日後、家にいると突然鳴き始めるオウム。
オウム:「ひー、ひー」
タツヤ:「またその鳴き声かよ。ホントよく分かんねえな、オウムって」
その夕方、友達のユウタからLINEが入る。
ユウタ:「わりぃタツヤ、頼み事なんだけどさ」
タツヤ:「どうした?」
ユウタ:「実は、オレのばあちゃんが亡くなって。当分学校休むことになるから、朝礼の当番を変わってほしいんだ」
タツヤ:「わかった。もちろん大丈夫だ」
ユウタ:「ありがと、じゃあな」
今度はユウタのおばあちゃんが亡くなった。ユウタの家に遊びに行くと、いつもオレにお菓子を出してくれる優しいおばあちゃんだった。
石川さん、そしてユウタのおばあちゃんの死を通してオレは思う。
もしかしたら、オウムの「ひー、ひー」というのは虫の知らせの類なのではないかと。この鳴き方が誰か身近な人の死を予言しているのではないかと。
それから数週間が経ったある日、またオウムが変な声で鳴き始めた。
オウム:「いー、いー、いー」
タツヤ:「今度は『ひー』じゃないんだな。じゃあ、大丈夫か」
オウムの変な泣き声で、一瞬、石川さんやユウタのおばあちゃんの事を思い出したが、鳴き声が違ったので安心するオレ。
しかし、その夜のことだった。
ウ~、カンカンカン
町内に消防車のサイレンが響き渡る。
そして火事によって、5人家族が全員死亡。亡くなったのはオレの小学校の担任、フジキ先生を含めた5人だった。
オレは混乱する。一体あのオウムは何を訴えているのか。
タツヤ:「一回目と二回目は『ひー』。そして今回が『いー』。ひー?いー?もう訳分かんねえ」
頭を抱えるオレ。
出来事を整理するために、一旦ノートにまとめることに。
一回目 の「ひー」で石川さん一人が亡くなった。
二回目の 「ひー」ではユウタのおばあちゃん一人が亡くなった。
そして三回目の 「いー」では 藤木先生の家族全員五人が亡くなった。
タツヤ:「はっ、そういうことか」
オレはある法則に気いてしまう。
オウムの鳴き声は数を表していたのだ。それも昔の数え方。
「ひー」というのは1、つまり死亡者数は一人。そして「いー」というのは5、つまり死亡者数は五人。また、やはり死亡者は全てオレの関係者だ。
オレは考える。もし次にオウムが鳴き始めたとき、何かできることはないのか。
でも、誰が死ぬのかは分からない訳だし。対処は難しいよな。苦悩するオレ。
気づくと眠っていた。
ドンドンドン
翌朝、オウムがケージの中、激しく暴れる音で目を覚ます。
タツヤ:「なんだどうした?」
するとオウムは叫ぶ。
オウム:「とお、あまりひとつ とお、あまりひとつ」
タツヤ:「『とお、あまりひとつ』って、『とお』は10で。あまりが1ってことは...まさか、11人が死ぬってことか。しかもオレの関係者で」
オレは疑心暗鬼になる。
流石に多すぎやしないかと。11人も死ぬなんてまさかそんなことあり得るのだろうか?
オレの気にしすぎではないのか。
バタバタバタ
オウム:「とお、あまりひとつ とお、あまりひとつ」
オウムが騒ぐ中、オレはいつも通り登校することに。
タツヤ:「まあ、流石に11人も死ぬなんてことは有り得ないだろう」
そう自分に言い聞かせ、学校に到着した。授業を受ける。いつも通りの平凡な日常だ。
タツヤ:「やっぱり、気のせいだったのかな」
オレはそう思った。
昼休み
オレは友達とかくれんぼをしていた。学校の隅、物置部屋に身を潜めるオレ。
すると、
「きゃあああああああ」
「逃げろおおお」
外からそんな言葉が聞こえる。
タツヤ:「誰か鬼ごっこでもやってるんだろ」
そう思いながら鬼が来るのを待つ。
だが、待てど暮らせど鬼が来ない。それどころか、外が静まり返っている。先ほどの騒ぎ声すら聞こえない。
タツヤ:「おかしいな。そろそろ掃除の時間始まっちまうな」
オレは倉庫を抜け、確認しに向かう。しかし、人の気配はない。廊下を進んでいくオレ。すると、
タツヤ:「こ、これって」
廊下に落ちていたのは血痕。そしてその先には、一緒にかくれんぼをしていた友達が倒れている。
タツヤ:「ひ、酷い傷だ。おい、大丈夫か?」
友達は応答しない。その時
コツ、コツ、コツ
背後から迫ってくる足音。きっと先生が来たのだと思い、振り返る。
タツヤ:「だ、誰だ、お前!」
そこにいたのは片手にナイフを持った中年の男。ナイフ、そして体中に激しく返り血を浴びている。
男:「僕、もう10人刺したんだ。君を刺せば11人目だよ」
オレは思った。やはりオウムの言っていたことは本当だったのだと。そしてオレはその11人に含まれていたのだと。
男が近づいてくる。
タツヤ:「ヤバイ。オレ、殺される。もう駄目だ」
しかし次の瞬間
男:「うっ。ああああっ、ああっ」
バタン
意識を無くし、倒れこむ男。
数分後、警察が到着。オレは保護された。犯人の男は急性の脳卒中で死亡。犠牲となったのは10人の生徒だった。
帰宅すると、母親が出迎える。
母:「無事でよかった」
タツヤ:「ありがとう。そういえば、オウムの声がしないね」
母:「ああ。実はね」
少し沈黙をおいて母は語った
母:「今日のお昼頃、声が聞こえないと思ってタツヤの部屋に行ってみたら、死んでたの。急にどうしちゃったんだろう・・」
解説
オウムは、占い師のお婆さんの下で飼われていた際、ちょっとした呪文を施されていた。これによって、飼い主の身近な人が何人死ぬのかを、昔の数え方(ひー、ふー、みー、よー)で予言することができるようになっていた。
朝、ケージの中で大騒ぎしていたのは、死亡する11人の中にタツヤも含まれていたから
しかし、新たな飼い主であるタツヤを守るため、オウムは自らの命を犠牲に。
そうすることでしか予知は変えられない。こうして、オウムの死によって未来が変わり、最後の11人目の死亡者は犯人へと変更。タツヤの命は救われた。
ちなみに、「きゃあああああああ」「逃げろおおお」という騒ぎ声は鬼ごっこではなく、犯人から逃げまどう生徒たちの声。
そして、校内が静まり返ったのは、タツヤ以外の生徒は皆校外に避難していたからだった。